宮𢌞正明 日本画の保存・修復部門専門家理

日本人の心の財産、精神文化

すべてを内包している日本文化

実は、日本文化とは、「シルクロードを経由して伝わった」「西の文化が東に伝わった」という簡単な表現では決して伝えきれないものです。西の村の文化が、東の隣村に伝わり、その村の文化を織り込んで、またその隣村に・・・。文化とは、新たな文化を生み出しながら尺取り虫的に伝わっていくものなのです。従って、その最終地点である日本は、西から東まですべてを織り込んだ文化が伝わった地であり、日本文化とは、長い年月を経て日本独自の文化の中に世界を内包した文化だと言えるでしょう。

しかし、大変残念なことに、日本人は日本文化や日本画について知ろうとすることに貪欲でないのが現状です。日本の学校教育を考えてみても、西洋の文化はこぞって教えますが、日本の文化について教える機会は極めて少ないのです。例えば、油絵を学ぶことはあっても、日本画を学ぶ授業はほとんどありません。油絵と日本画の違いは接着剤の違いだけです。油絵は接着剤が油、日本画は膠です。もともと絵画の接着剤には、世界中で膠が使われていました。しかし、簡便さの問題だけで油が主流となり、膠は廃れていきました。しかし、これからの世界でもっとも大切になってくること、それは使い捨てる文化ではなく、大事に守っていく文化です。物質文明から精神文明へと世界は大きく変わろうとしています。そして、変わらねばなりません。そういう意味で、これからの世界に日本文化、とりわけ日本画の存在価値はきわめて大きいのです。

見えない縦糸を守ること

文化・芸術は、大きく二つに分けられます。新たに作られる文化・芸術と継承される文化・芸術です。芸術作品は作られた時から劣化が始まります。そういう意味で芸術に携わる人間は、作品を作ることと同時に作品を保存することを考えていかなければならないのです。作品を作るということに光があたりやすいのが目の前の文化・芸術の世界ですが、継承するための保存は、作品づくりと同等に意義のあることなのです。

文化財の保存を、一枚の布に例えてみましょう。布は縦糸と横糸が織り重なってできています。縦糸が伝統や歴史で、横糸が現在。布を織る時には、芯になる縦糸は表面には出ず、陰に隠れます。しかし、伝統や歴史というしっかりとした縦糸があるからこそ、横糸は模様を織っていけるのです。一枚の布(作品)となって見えなくなった縦糸は、どんどん過去になっていきますが、その過去を紐解くことによって、時代を顧みることができるのです。現在があるのは、過去として残されたものや伝統があるからです。日本には、世界を内包しながら育った素晴らしい文化が、脈々と存在してきました。日本文化、その代表である日本画を保存し、守り、伝えていくことは、日本人に欠くことのできない使命であり、心の財産なのです。

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