令和5年度映像(日本映画)<学部生対象>研究表彰【A】の各賞が決定いたしました。
賞 作品名 制作責任者 大学名
大賞 『花心 ファーシン』 安本 美玖 京都芸術大学
奨励賞 『ふれる』 髙田 恭輔 日本大学
奨励賞 『アスク・フォー・ザ・ムーン』 大石 泰司 大阪芸術大学
審査員スペシャル・メンション 『赤でなし』 石井 茉帆 大阪芸術大学
以上
審査総評 早川千絵
コロナ禍という未曾有の混乱の中で大学生活を送り、様々な制約を受けながらも映画を完成させたみなさんの努力と情熱をまずは讃えたい。最後まで手を抜くことなく自分の作りたいものに全力を尽くしたことが8作品全てから感じられ、その誠実さに胸を打たれた。二十歳を少し越えたばかりの今のあなたにしか撮れない映画が誕生した。そのこと自体が尊く、誇るべきことだと思う。
審査にあたっては、作品の独創性と監督の将来性に重きをおいて評価を行った。その監督の次回作を観たいと思うかどうかが重要なポイントとなった。
全体的な印象としては、説明過多なセリフや音楽の頻用、ステレオタイプ な人物描写や既視感のある物語展開の作品が多く見られ、テレビ・配信ドラマやアニメ的な演出の影響を強く感じた。こうした作品は独創性の点で評価が低く、今後、映画を撮っていきたいという人は今一度、テレビドラマと映画の違いとは何かを考えてみて欲しい。審査員全員の一致した意見として、全般的に音楽の使い方がうまくいっていないという点が挙げられた。音楽で無理やり感情を盛り上げようとしたり、好きな音楽をあてることでカタルシスを得たような気になる、自己満足の域に留まっている作品が多かった。
高い評価を得たのは、観る者に想像する余地を与える、映画のたたずまいをもった作品だった。大賞の「花心 ファーシン」は人物の心象が映像として表現されている点でずば抜けていた。カメラの位置や被写体との距離に監督の確固たる意志とセンスを感じ、強く惹き込まれた。奨励賞の「ふれる」も映画的な時間を有する作品で、15分の短編ながら、監督の確かな能力と個性を感じた。長編を撮ってもその力が遺憾なく発揮されることが容易に想像でき、次作を是非見たいと思わせる作品だった。残るもうひとつの奨励賞を「アスク・フォー・ザ・ムーン」とするか、「赤でなし」とするか、最後ギリギリまで議論が続いた。前者は非常に洗練され完成度が高く、8作品中一番野心的な作品。賞を獲ろうが獲るまいが、この監督は放っておいても映画を撮り続けるだろうと思わせる実力と安定感があり、個性も確立されている。一方、後者は洗練されていないにも関わらず不思議な引力のある作品で、その拙さが魅力となっていた。主人公の人間らしさが強く印象に残り、ラストが秀逸だった。非常に悩ましい選択だったが、最終的に「アスク・フォー・ザ・ムーン」の完成度と野心をより高く評価するという結論に至った。「赤でなし」にはこれからの期待を込めて特別に審査員スペシャルメンションという賞を授与することとした。
表彰作品は英語字幕作成に係る費用のサポートを受けられるとのとこと。英語字幕がつくことによって、映画がより広い世界へ飛び出し、より多くの観客と出会う可能性が確実に広がるので、このチャンスを生かして、日本に留まらず積極的に外の世界とつながることを意識して映画作りを続けて欲しいと思う。